堤先生の子供の栄養学

相模女子大学栄養学部教授 堤ちはる先生の子供の栄養学コラム全5回シリーズ

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  • 第1回 賢いママの『無添加』と『味付け』
  • 第2回 大人と一緒 簡単離乳食
  • 第3回 手づかみ食べはなぜ大事なの?
  • 第4回 離乳完了後の食事はどうするの?
  • 第5回 子どもの偏食の捉え方

第5回 子どもの偏食の捉え方

icon 多彩な食材を使った食事を

 幼児期の偏食は、ある時期に食べられなくても次第に食べられるようになったり、食べられるようになったかと思うと他の食品を嫌がったりと、好き嫌いの食品が固定しないことが多いです。そこで、ある食品を嫌っても、日を改めたり、調理法、味付けを変えたりするなどの工夫をして、受け入れを促す配慮も必要になります。
 また、子どもの偏食の原因のひとつに「食べたことがないから嫌い」といういわゆる新奇性恐怖からくる「食わず嫌い」があります。

icon 新奇性恐怖とは

 人間は雑食性の動物なので、私たちの祖先は初めて食べる物に対しては、「食べても大丈夫なのかしら?」、「毒は入っていないのかな?」などと警戒し、食べてみて安全が確認できた物を食べ物として認識してきました。この初めて見る食べ物に対しては、まず恐怖心をもち、警戒する行動様式を「新奇性恐怖」と呼んでいます。
 子どもも新しい物を食べるときに恐怖心から、「食わず嫌い」になることがあります。しかし、その時、一緒に食卓を囲む人が「ああ、おいしい」と食べ物に向き合うことで恐怖心が薄らぎます。特に、それが親や家族、園の先生など親しい人なら、なおさら安心して食べることができます。

icon 食事時間は楽しい雰囲気で

 「この子にこの料理の固さは合っているかしら?」、「味付けはよかったかしら?」などと、一生懸命にお子さんの食事を作った後、食べさせるときに不安げに子どもの様子を見てしまう方が時にいらっしゃいます。しかし、これでは子どもは安心して食べることが難しくなってしまいます。そこで、周りの人が「おいしい!」と、子どもより先に楽しい雰囲気でいただくと、子どもも「新奇性恐怖」が薄らぎ、安心して食べるようになります。ですから、食事の時間に「これはおいしいね」と言葉に出して、楽しい雰囲気で食事をすることも、大切な食育になります。

icon 偏食の捉え方

 嫌いな子どもが多いピーマンは、β-カロテンを含んでいます。しかし、ブロッコリーやほうれん草でも摂れる栄養素であることから、「嫌いなピーマンを無理に食べさせる必要はない」と考える人もいます。確かにブロッコリーやほうれん草を食べることができるなら、ピーマンにこだわる必要は栄養学的にはほとんどないでしょう。しかし、幼児期はいろいろな生活環境に心や体を適応させる意味で重要な時期であることから、多様な食材を食べる経験を積む必要があると考えられます。
 そこで、ピーマンの切り方や味付けを工夫し、「ひと口でもいいから食べてみよう」と励まし、ほんの少しでも食べたら「すごいね!」と褒め、子ども自身がさまざまな食材を受容できる環境を作ることも大切です。

icon いろいろな食べ物を食べることの意義は

 嫌いな食材を食べることができたという達成感は、褒められることでさらに強められ、自信が生まれます。その自信がやる気につながり、物事に前向きに取り組めるようになるでしょう。例えば人間関係について考えてみると、世の中には自分と気の合わない人がいても、「嫌いだから付き合わない」と切り捨てるわけにはいかず、ある程度付き合っていかなければならない場面もあります。相手を好きになれなくても「こんな考え方があってもいい」とその人の個性を受け入れることで、円滑な人間関係を築くことができます。学問や仕事にも同じことが言えると思います。
 いろいろな食べ物を食べることの意義は、生活のさまざまな場面にまで広がることを心に留めて、子どもと向き合う姿勢が重要です。

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