にんべんとは 鰹節業界への貢献

にんべんは、自社の技術や利益を独占するのではなく、鰹節業界全体の発展という視点も大切にしています。そのため、にんべんが研究を重ね選定した優良鰹節カビやフレッシュパックの技術は、企業秘密にするのではなく他社へも提供することで業界へ貢献してきました。

鰹節の品質を底上げした優良鰹節カビ

節の表面にカビをつけた鰹節を枯節といい、かつては建物や室に住み着いたカビを自然に付着させ製造していました。しかし、自然な状態で鰹節に付着する菌の種類はさまざまで、鰹節の香りや味にばらつきが生まれていました。

にんべんはこの品質を安定させるために研究を重ね、5年が経過した1982年、にんべん研究開発部の荻野目望が「鰹節カビ」を選定しました。安全性が確認されたこのカビを節に植菌し、温度と湿度を管理することで品質の高い枯節を安定して作れるようになりました。

報告を受けた当時の社長は、カビについての情報を他社に無償で提供するという、開発を担当した社員も驚く意外な判断をしたため、にんべんは鰹節カビの情報と技術を独占せず、鰹節業界に広く公開しました。

これは、多くの人に鰹節の美味しさを知ってもらうためにはにんべんだけが高品質の鰹節を売るのではなく、消費者が広く手に取る鰹節そのものの品質を上げるべきという考えからの決断でした。

にんべんによる優良鰹節カビの選定、そして情報・技術の無償提供は業界全体の鰹節の質を底上げし、鰹節文化の更なる発展に貢献したのです。

優良鰹節カビの菌の拡大写真

業界に革新をもたらしたフレッシュパック

同じくにんべんが開発した「フレッシュパック」は業界全体に大きな影響と変化をもたらしました。

鰹節は酸化の影響をとても受けやすい商品です。家庭でも手軽に使える削った鰹節は以前から販売されていましたが、製造過程や保存期間で鰹節が酸化してしまい、本来の美味しさを感じてもらうことはできずにいました。そのため、できるだけ酸素に触れさせず鰹節を保存する技術の開発が業界の課題がありました。

にんべんは昭和33年(1958)から鰹節を酸化させない販売方法の開発に着手し、改良を重ねて昭和43年(1968)に「フレッシュパック」として商品化し、翌昭和44年(1969)に販売を始めます。それは、プラスチックフィルムよりも酸素分子を通しにくい透明フィルムを三層構造にして袋を作り、削った鰹節を入れて窒素ガスと一緒に密封するというものでした。

この技術は、当初にんべんが特許を取得していましたが、当時はうま味調味料の台頭で鰹節でだしを引く習慣が廃れ始め、鰹節需要が低迷し業界全体が危機感を持っている状況。そこでにんべんは自社で新しい技術と利益を独占するのではなく、業界全体で活用したほうがよいと判断し、特許を解放して他社も密封袋入り削り節を販売できるようにしたのです。

この判断は鰹節の需要を大きく回復させ、1979年には「フレッシュパック」の開発および製法の公開が業界とカツオ漁業の発展に貢献したとして、農林水産省から天皇杯を受賞しています。

  • 発売当初の広告
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  • 現在のフレッシュパック
    現在のフレッシュパック

鰹節の食文化を守る

食生活が多様化した現代では、だしを使う習慣がないという人も増えてきています。しかし、だしが持つ文化的な意味や、味覚の形成といった食育的な意義は、けっして軽視できるものではありません。

にんべんは、小さい頃からうま味調味料に頼らない味覚を育て、本物のだしの味に触れる経験をすることが大切だと考えています。そこで、食育活動の一環として都道府県の学校給食会などを通じ、栄養士の方を対象にした出張セミナーを開催しています。

セミナーでは鰹節やだしの歴史、日本食との関わりについてお伝えしており、だしを料理に使うことに意味を感じてもらうことを目的にしています。

また、学校施設や介護施設に向けた活動も行っています。煮出して使うだしパックなら手軽にだしをひくことができるので、にんべんのだしパックをご利用いただく学校や給食センターが徐々に増えつつあります。

介護施設では鰹節だしを使った惣菜を施設で使いやすい量目にパック詰めして冷凍したものをお届けしています。だしをしっかり使って塩分を抑えたり、食べやすいように軟らかめに仕上げたりと、仕様にも工夫しています。

こういった活動に代表される料理における鰹節やだしの地位向上への取り組みは、鰹節の需要を高めることで鰹節業界全体への貢献にも繋がっています。