にんべんとは 製品開発力の秘密

本物の鰹節の美味しさを手軽に料理に加えられるつゆの素や、削りたてのような鰹節の味わいを楽しめるフレッシュパックなど、にんべんは業界の常識を変える画期的な商品を多く生み出してきました。現代の多様なライフスタイルや少子高齢化といった社会の変化にあわせて、これからも生活に取り入れやすい形の鰹節を使った商品の開発を積極的に進めていきます。

常識を変えたつゆの素

にんべんの主力商品でもある「つゆの素」は、実は商社からの依頼を受ける形で開発が始まりました。商社から提案された内容は、にんべんという歴史を持った鰹節専門店の看板と、つゆを組み合わせた新しい商品の開発です。

つゆといっても用途は麺つゆだけでなく、さまざまな料理に使える汎用性の高い調味料をコンセプトとして、本格的な鰹節の美味しさと使い勝手のよさを両立させる商品を目指しました。

このコンセプトの背景にあったのが、鰹節需要の低下です。当時は家庭にうま味調味料が普及し、道具を準備したり削ったりという工程を踏む鰹節の文化が廃れ始めていました。しかし、鰹節は液体と組み合わせるとすぐに腐るというのが当時の常識とされていたため、鰹節を使った液体調味料は実現困難なものとされていたのです。

そこでにんべんの開発責任者は、缶詰工場での勤務経験から得た殺菌に関する知識を活かし、微生物の制御技術を用いて実験を重ね、食品衛生法をクリアする製品の開発に成功しました。

こうして技術的な課題を乗り越え、新しい商品を製造する工場の協力を得たのち、「鰹節を使った液体調味料は腐る」という常識をくつがえして「つゆの素」は誕生しました。

  • つゆの素 初代
    つゆの素 初代
  • つゆの素初代(王冠)
    つゆの素初代(王冠)

しかし、販売当初はまったくといっていいほど市場から受け入れてもらえませんでした。当時市場に出回っていた液体調味料には、醤油にだしの素を加えたような商品も多く、それらの評判とあわせて「つゆの素」も取り引き先からなかなか評価をもらうことができずにいました。結果、初年度は販売数とほぼ同じ1000ケースの在庫を積み残してしまいます。

それでも「つゆの素」の品質に自信を持っていた営業チームは粘り強く販売活動を続け、「値段だけは崩さない」という基本姿勢を貫き通し、やがてその努力が実を結びます。手軽に本物の鰹節だしが味わえることが徐々に市場でも評価され始め、販売2年目、3年目と販売数が伸びていきました。

定番商品となった現在は、さらにワンランク上の「つゆの素ゴールド」シリーズを展開しています。なかでも原材料を変えることなく配合比の調節だけで味を整え、塩分を30%カットした「塩分ひかえめつゆの素ゴールド」は特に人気が高い商品です。

現在のつゆの素シリーズ

試行錯誤の末生まれたフレッシュパック

1960年代はうま味調味料の台頭で鰹節の需要が大きく傾いていました。そこで手軽に使える鰹節けずりとして開発されたのが「フレッシュパック」です。

削った鰹節の販売は以前より存在していましたが、鰹節は酸化の影響を非常に受けやすい食品のため、従来のやり方では鰹節本来の美味しさを感じにくいという問題を抱えていました。そこで、家庭で手軽に削りたての鰹節を味わうことができる、酸化の影響を受けない削り節の開発が急務でした。

当初の案は、袋に炭酸ガスを吹き込んで削り節を密封するというものでした。しかし、試作してみると微量の酸素分子がプラスチックフィルムを透過してしまい、数カ月経つと徐々に品質が劣化していくことが分かりました。その後も賞味期限まで品質を保つという課題がクリアできないまま開発は難航します。

昭和37年(1962)、酸素を通さないアルミ箔の包装に窒素ガスを入れて密封する方法で暫定的に「フレッシュパック」は完成します。しかし、アルミ箔包装は中身が見にくく検品で密封不良を目視確認できないため、商品化されることはありませんでした。

その後、樹脂メーカーが酸素を通しにくい透明フィルムを開発し、開発は一気に進展します。三層構造の透明フィルムで袋を作り、鰹節を窒素ガスと一緒に密封する方法にたどり着き、昭和43年(1968)に「フレッシュパック」の商品化が決定しました。

  • 発売当初の広告
    発売当初の広告
  • フレッシュパック初代
    フレッシュパック初代

販売にあたって、社内では「こんなものが売れるはずない」という意見が大半でしたが、第五代目社長・高津照五郎と、当時取締役総務部長だった十二代目高津伊兵衛は思い切って販売を決定します。

結果、いつでもどこでも簡単に削りたての鰹節の風味が味わえる「フレッシュパック」は大きな反響を呼び、その年はお歳暮の生産が間に合わないほどでした。

現在のフレッシュパック

鰹節が薫る空間にこだわった「薫る味だし」

昨今、業界において素材にこだわった味付き高級だしパックがブームとなっており、にんべんでも高級路線のだしパックの展開に力を入れています。

味付き高級だしパックとは、鰹節のほかに醤油や砂糖などの調味料があらかじめ調合されているだし商品です。家庭でも手軽に本格的な味付けを実現できるため、料理への関心が高い層から注目を集めています。

にんべんが味付き高級だしパックを開発するうえで最もこだわったのは「香り」です。既存の味付き高級だしパックは鰹節の香りが弱く、私たちは鰹節だしの香りを感じられる商品を目指したものの開発は難航しました。

鰹節は乾燥食品とはいえ、15%前後の水分が含まれています。高級だしパックを作る過程で、味付けのために塩や粉末食品を鰹節と一緒に密閉すると、鰹節の水分が加わってべたつきや風味の劣化がおこり、品質を保つことができません。

一般的な味付きだしパックに使われる鰹節は、ほかの調味料と混ぜる前に熱をかけて水分を飛ばすことでこの問題をクリアしていますが、水分と一緒に鰹節の香りも飛んでしまうため鰹節だしの香りを再現できなくなります。香りにこだわった高級だしパックを実現させるためには、新しい製造方法を開発しなければなりませんでした。

従来の製法に変わる新しい方法を考案できない期間が続きましたが、別の商品の開発途中で鰹節の水分を抑えつつ香りを保持する方法が生まれたため、その技術を応用して高級だしパックは完成しました。

高級だしパックを商品化するにあたって、鰹節以外の原材料にも気を配りました。味を補強する素材は一切使わないことにこだわり、ちば醤油のプレミアム醤油「下総醤油」や、だしとの相性が非常によい「クリスマス島の塩」などを使ってシンプルに素材の美味しさを追及しています。

商品名は、「だしが香る空間の豊かさ」をイメージした「薫る」という言葉を選んで「薫る味だし」と命名。鰹節の豊かな香りを保ちながら、同時に味付けまで整う、鰹節専門店のこだわりを追及した商品になりました。

新たなジャンルを開拓した「だしとスパイスの魔法」

2018年9月からスーパー向け商品として販売が開始された「だしとスパイスの魔法」は洋食メニュー専用調味料で、料理が得意なタレントとして有名な俳優、速水もこみちさんをにんべん公式アンバサダーに迎え、社内の女性チームと共同で開発に取り組んだ商品です。

商品のコンセプトはアップデートを繰り返し、2020年の春に「時間がないけれど、家族と一緒においしい料理で食卓を囲みたい」そんな願いを叶えるワンランク上のメニュー専用調味料という提案にブラッシュアップされました。

速水もこみちさんも交えた開発チームのメンバーでコンセプトの議論を重ね、キッチンスペースで実際に調理試作を繰り返すなど、ゼロベースの共同制作から生まれました。

また、速水もこみちさんの豊富な料理経験から美味しさを最大化する料理プロセスの工夫が加えられ、使っていると気づかないうちに料理上手になっていくという裏コンセプトも仕込まれています。