にんべんとは にんべんの海外展開
にんべんが近年注力している事業の一つが、鰹節やだしの文化を広く世界へと伝えていくことです。「祖業から離れない」ことを基本に商売を続けてきたにんべんだからこそできる、本格的な鰹節文化の発信を海外に向けて進めていきます。
日本食レストランの広がりとだしの需要
にんべんが商品の海外展開を強化する背景には、日本食レストランの急速な広がりがあります。海外の日本食レストランの数は2015年では89,000店舗でしたが、2019年には156,000店舗まで伸びています。4年でおよそ180%も増加しています。それと比例するようにして、だしへの注目度も高まっているのです。
にんべんは、この傾向を見越して2013年頃から海外展開の強化を計ってきました。海外に向けて売り出した商品の中でも特に人気があるのが「だしパック」と「つゆの素」です。
日本食レストランの料理人の中には、鰹節を使ったことのない方も少なくありません。そんな方々にとって、鰹節からだしをひく作業は敷居も高く、手間もかかります。しかし「だしパック」であれば、鍋に入れて煮立てるだけで、鰹節を使ったことがない料理人でも本物のだしをひくことができます。
「つゆの素」は「だしパック」よりも単純です。水で薄めるだけで、様々な日本食を再現することができます。ラベルに用途ごとの希釈比率が明記されており、1本で日本料理の味が決まるという点も評価されています。
だしを楽しむきっかけは"うどん"
日本でも海外でも同様ですが、加工食品の味に慣れている人にとってのうま味とは、うま味調味料であることがほとんどです。うま味調味料は人工的に作られた味なので、はっきりとしたうま味が特徴です。
そのため、鰹節や昆布からひいただしを使った料理を食べても、うま味調味料が入った料理の方が美味しいと感じてしまうのです。実際にニューヨークでの日本食イベントににんべんが参加した際に、本枯鰹節だしを使った料理を提供しても、「味がぼんやりしている」「はっきりしない」という感想を抱く方が多くいました。
そんなだしの味に慣れていない方々にとって、よい入り口となるのがうどんです。うどんは単品メニューなので、だしの味をストレートに感じやすく、麺をゆでてつゆと合わせるという極めてシンプルな料理のため提供する側の負担も少なくて済みます。
また、うどんは一般的なレストラン以外にもファストフード店でも取り入れやすいメニューというメリットもあり、だしを気軽に知ってもらう食べ物として、うどんは最適なのです。
まず、うどんを通してだしの味に親しんでもらい、それを入り口として煮物や天ぷらなど様々な日本食に触れてもらう。このように海外の方が段階的にだしを楽しめるような、環境づくりにもにんべんは力を入れています。
海外輸出へのハードルと取り組み
食文化の違い以外にも海外進出のハードルとなり要素があります。それはルールです。
現在の海外売上は半分以上が北米市場ですが、伸び率ではEUと東南アジア圏が増加しています。イスラム圏も市場としての可能性を期待しており、すでにハラール認証を取得した協力工場もあります。
一方で、EUは独自のルールで鰹節の輸出が規制されているため、日本から鰹節を輸出することができません。そのためEUで販売している鰹節はフランスやスペインで現地製造されたものですが、日本からの輸出を可能にするための取り組みも始まっています。
輸出のハードルは大きく2つあり、1つ目は食品衛生に関する管理手法のルールを定めたEUHACCPです。EUに水産物を輸出するためにはEUHACCPの認証を受ける必要がありますが、現在日本国内で基準を満たす施設を持っている港はほとんどありません。
2つ目は鰹節を燻す過程で発生する多環香族炭化水素(PAH)に関する規制です。鰹節はEUの燻製品に求められるPAHの基準値を超えていることが輸出を困難にしています。
しかし、鰹節はハムやソーセージなどといったほかの燻製品と比べると一度に使用する量が圧倒的に少ないことに加えて、PAHは水に溶けにくい性質のため、煮立たせただしを使う鰹節に既存の規格を適用することはできません。そこで、現在は鰹節をほかの燻製品と区別し、規格を見直してもらうよう業界全体で取り組んでいます。
このような活動を通して、歴史ある鰹節専門店の伝統を守りつつ、鰹節やだし文化を広く世界に伝えていきます。世界には鰹節やだしの可能性が広がっています。