鰹節について

ひとくちに鰹節といっても、製造時期や製造方法によって、いくつかの呼び名に分けられます。鰹節に欠かせないカビ付けの効用から、鰹節の大敵である湿気と害虫のことまで、鰹節についてまとめてみました。

1. 原魚の漁獲海域や時期による品質の違い

太平洋岸を春から秋にかけて移動する日本近海のカツオは、漁獲時期によって脂肪量が変化します。4~7月に漁獲したカツオが原料の鰹節を「春節」「夏節」、8~10月のものを「秋節」と呼びます。

初鰹は脂肪が少なく鰹節の原料に適しますが、戻り鰹は、脂肪が多いので、鰹節の原料には適しません。また、春節は日乾の時期が真夏に重なり、乾燥工程も最適の時期に当ります。

地域別に見ると、周年いる海域のため九州沖から伊豆七島にかけて漁獲されるカツオが春節の時期に当り、東北沿岸域のカツオが秋節に当ります。昔から薩摩節・土佐節・焼津節・伊豆節は上物、三陸節(東節)は劣ると言われてきたのも、脂肪の含有量によるものです。

ただしこれは、近海で獲れるカツオから鰹節を作っていた時代の話です。漁場・漁法・冷凍技術が発達し遠洋漁業の漁獲高が増大したため、現在は一概には当てはまらなくなっています。

表.カツオ生肉の成分分析表(可食部100g当たり)

エネルギー(Kcal) 水分(g) たんぱく質(g) 脂質(g) 炭水化物(g) 灰分(g)
春獲り、生 114 72.2 25.8 0.5 0.1 1.4
秋獲り、生 165 67.3 25.0 6.2 0.2 1.3

2015、第7版 日本食品標準成分表より

2. 鰹節の種類

本節

3kg前後を境に、大きいものは3枚に卸した左右の身をさらに背側・腹側に切り分けて、背節(雄節)、腹節(雌節)各2本、計4本の節を造ります。

亀節

3kg前後を境に、小さいものは3枚に卸した左右の身から、2枚の節を造ります。出来あがった節の形が亀の甲羅に似ているので亀節と呼びます。

  • 本節
    本節
    左:腹節(雌節)、右:背節(雄節)
  • 亀節
    亀節

3. カツオと鰹節の重量と大きさの比較

カツオ原魚を100としたときの重量歩留まりは、鰹荒節で22まで減少し、本枯鰹節ではさらに15まで減少します。また、カツオに比べると、本枯鰹節の大きさについても写真のように小さくなります。

  • カツオと鰹節の比較
    カツオと鰹節の比較

4. 焼津節と薩摩節

全国各地で生産される鰹節は、その産地ごとの製法に特徴があります。現在は、静岡県焼津の製造方法を基本にして制定された焼津節(改良型本節)と、鹿児島県枕崎で古来より受け継がれている薩摩節(薩摩型本節)があります。焼津節は伊豆節と土佐節の長所を取り入れたことにより、改良型本節として中心的な製造方法となりました。

焼津節(改良型本節)は「鰹節の歴史」「カビ付けの変遷」に準じます。頭の部分がくびれているのが特徴で、これは鰹節を保存するときに縄で吊るしやすい形にするためという説もあります。

薩摩節(薩摩型本節)の大きな特徴は、生切りで頭を落とすときに約45度の角度でスパッと切り落とすことです。前述のように、改良節はくびれているのですぐに見分けがつきます。また、製造工程の中で大きく違うのは、改良節が煮熟後に水槽の中で骨抜き、皮剥きを行う(水骨といいます)のに対して、薩摩節は、放冷後に水槽に入れずに骨と皮をとります。(陸骨といいます)

  • 焼津節
    焼津節
    一説では頭の部分をくぼませ、保存時に縄で吊るしやすいように考えられました。
  • 薩摩節
    薩摩節
    頭を約45度の角度でスパッと切り落とします。

5. 焙乾の方法と効用

焙乾方法

手火山式

2mほど掘った穴の上に、骨抜きを終えた節を並べたセイロを数枚重ねて置きます。下から薪を燃やして熱気と燻煙を当て、当たり具合が均一になるように途中でセイロの上下および左右を入れ替えます。古くより使用されていた焙乾方式です。

炊納屋式<タキナヤ>

部屋全体を階層別に区切られた焙乾室にして、熱気と燻煙を充満させた中で焙乾をします。焼津地区では急造庫<キュウゾッコ>と呼んでいます。

焼津式

焙乾室の中に燻煙をファンで強制的に循環させ、焙乾します。

  • 手火山式
    手火山式
  • 手火山式焙乾中
    手火山式焙乾中
  • 焚納屋式
    焚納屋式(主に枕崎、山川地区で使用)
    2階建て構造。1階の火床で火山を燃やして熱と燻煙を発生させ、2階に入れてある節を焙乾します。
  • 焼津式(乾燥機)
    焼津式(乾燥機)(主に焼津地区で使用)
    火床で薪を燃やして発生させた熱と煤煙を、上部のファンで強制的に庫内に導入し焙乾を行います。

焙乾の効用

焙乾工程初期の一番火・二番火の段階では、表面についた雑菌を殺し、「ネト」といわれる雑菌の集団の発生を防ぎます。また、一番火・二番火は鰹節独特の香りを生成しますが、この香りは直接的なものと間接的なものの二つに分けられます。直接的な香りは、燻煙に含まれた成分が付着したものです。間接的な香りは、後工程でつけられた優良鰹節カビが燻煙成分の溶け込んだカツオの身や脂と作用して作られるものです。

また、焙乾で出る燻煙中のフェノール物質は節の脂の酸化防止に効果的です。魚肉は酸化しやすい脂肪酸を多く含んでいるので、空気に触れるとすぐ酸化したり、脂やけをおこします。以上のように焙乾には、殺菌・風味付け・品質保持と重要な働きがあります。

6. 鰹節の識別法

一般の方が鰹節の良し悪しを見分けるのは簡単ではありません。見分ける際の外観の目安は次のようになります。

  • きめ細かい茶褐色のカビが、薄く均一に生えそろっているもの。
  • 節に残された皮のしわが、ちりめんのように細かいもの。
  • 良く乾燥していて、鰹節同士をたたくとカンカンと固く、澄んだ余韻のある音がするもの。
  • 表面がふっくらと丸みを帯び、持ったときにずっしりと重みを感じるもの。
  • 姿形がきれいで繕った部分が少なく、身割れや虫食いがないもの。

7. 鰹節のうま味成分

昔は手漕ぎの舟で漁に出て、近海の魚を獲って食べていました。当然、冷凍設備などはなかったので、腐敗に対する対策がいろいろと取られてきました。代表的なものは「煮る」「干す」「塩蔵する」です。これは単なる腐敗防止以外に、予期せぬ効果を生み出しました。カツオをはじめとした赤身魚は、その強い運動性のため魚筋肉内に多くの酵素を含んでいます。そのため、白身魚と比べると「生き腐れ」といわれるくらいに鮮度が落ちるのが早いです。

これらの魚のうま味とされる「イノシン酸」は魚が生きているうちは肉質内に存在しません。魚が死ぬと筋肉中の酵素が活動を始め、筋肉のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)を分解します。そうした「自己消化」の過程のある一時期に、イノシン酸が蓄積されます。うま味成分であるイノシン酸の自己消化はさらに進み、イノシン酸から苦味や渋味の「イノシン」や「ヒポキサンチン」に分解されていきます。

8. 鰹節の大敵

鰹節の大敵は、湿気と害虫です。

湿気

もともと、鰹節はカビを付けて造られているのですが、この「優良鰹節カビ」と呼ばれるユーロティウム属のカビは、カビの中でも乾燥して水分の少ない場所に生える特性を持っています。水分含有量が18%以下の乾燥度が高い鰹節には、 酵母菌・腐敗菌は発育できず、優良鰹節カビの独壇場となっています。しかし、湿度が80%以上になると、鰹節が吸湿してほかのカビ類や酵母菌などが繁殖を始めます。これによって酸化が進むなど味が変質してしまうだけでなく、カビの種類によっては衛生的に良くないことも起こります。

害虫

鰹節につく害虫はカツオブシムシの幼虫で、製造業者の間では「ガイダ」「ゲエタ」と呼ばれます。カツオブシムシは、甲虫目カツオブシムシ科亜目,カツオブシムシ科に属する昆虫の総称で、日本にはヒメマルカツオブシムシ・ヒメカツオブシムシ・トビカツオブシムシなど約20種類います。また衣類の害虫としても知られています。

乾燥食品への主な害虫

  • ヒメマルカツオブシムシ 年1回発生、脱皮6~8回、成虫態にて越冬。(幼虫体長:4.0mm内外、成虫体長:3mm内外)
  • ヒメカツオブシムシ 年1回発生、脱皮7~9回、幼虫態にて越冬。(幼虫体長:8〜9mm内外、成虫体長:4.5〜5.5mm内外)
  • トビカツオブシムシ 年2回発生、脱皮5〜7回、幼虫態にて越冬。(幼虫体長:15mm内外、成虫体長:9mm内外)
  • ハラジロカツオブシムシ 年3回発生、脱皮6〜7回、成虫態にて越冬。(幼虫体長:10〜15mm内外、成虫体長:9〜10mm内外)

害虫の習性

  • これらの害虫は高温多湿を好むので、梅雨から初秋にもっとも多く発生する(温度25~30℃、湿度75~90%が最適条件)。
  • 成虫、幼虫、さなぎのいずれかの形態で越年し、移動は歩行がほとんどで、飛翔による伝播は少ない。
  • 加害食品の水分量は25%以下で、それ以上はあまり摂食しない。
  • 雑食性のものが多いが、動物質のエサを好んで摂食し、被害を与える。
  • 多食である反面、飢餓には極めて弱い。
  • 暗い場所を好んで生息する。天日には弱いが、日に干しても離散するだけで殺虫効果は少ない。
  • カツオブシムシは幼虫体時に被害を与える。蛹化時には鰹節本体に穴を開け、その中で羽化して成虫となる。成虫になってからの被害はない。また、ダニ類も鰹節に発生する。

乾燥食品へのその他の害虫

コナダニ科 ケナガコナダニ、ムギコナダニ、コウノホシカダニ、アシブトコナダニ

9. 鰹節の保管方法

鰹節の大敵は湿気と害虫。以下の方法で湿度・害虫から守ることができます。

  1. ラップ、ポリ袋などに入れる。
  2. 密封したものを、0~5℃の冷蔵庫に入れる。

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