カツオ漁場と漁法

カツオ漁の発展は、人々の間に鰹節が広まった江戸時代に始まりました。時代とともに漁場も沿岸から遠洋へと広がり、近年は漁獲したカツオを船上で冷凍保存する技術の発達に目覚ましいものがあります。

1. カツオ漁の変遷

江戸の繁栄に伴って、カツオの刺身は季節の趣向物として武家から町民まで広い階層に浸透していきました。また、鰹節がこの時代に改良され、最高の調味料として料理方法の改善に貢献しました。

鰹節が献上品や土産物品として珍重されたためカツオの需要はますます増加し、江戸時代中期にはやや沖合での竿釣りや、沿岸および内湾での網漁業が発展。当時の漁船は10~20人で操櫓船(やぐらを装備した船)に乗り込み、朝方に出かけて夕方に帰ってくる小規模な漁業形態でした。当時カツオ漁が盛んだったと思われる地方は現代と同じで、薩摩・土佐・紀伊・豆相(小田原〜熱海)・房総などがあげられます。

明治時代の後半になると漁船が動力化され、カツオの群れが回遊してくるのを待つ受動的で季節的な漁業形態から、沖合の広い海域で魚群を探して獲る積極的な漁業形態に転換します。明治39年に静岡県水産試験場の富士丸(木造19トン)が石油発動機を備えつけて伊豆七島近海まで出漁し、好成績を収めたことがカツオ漁業の更なる発展の契機になりました。大正時代には発動機付きのカツオ漁船が900隻ほどにまで増加し、手漕・帆船時代から小型発動機時代へと移行しました。

昭和時代になると、漁場域は東北海域で東経160度付近、南西海域では台湾北近海まで拡大しました。さらに、漁船の動力化・大型化、そして鋼製化に伴い、竿釣漁業は中南方から南方海域(遠洋)へと進出し、マリアナ諸島からトラック島付近まで漁場が拡大。漁獲量も2~5万トン台から約2倍の5~10万トンになりました。その後、漁獲量は第2次世界大戦により減少し、昭和20年の終戦時には2万トンを切りますが、昭和34年ごろ15万トン台に回復します。

また、昭和38年ごろに南方海域での本格的な竿釣操業が始まると、マリアナ諸島・パラオ諸島付近への出漁が増加し、総漁獲量は日本近海より多く20万トン台に達しました。昭和49年以降になると、竿釣新漁場が南方海域へ開拓され、ミクロネシア全域・パプアニューギニア北部海域・ギルバート諸島・ソロモン群島・エリス諸島へと拡大し漁獲量も急増しました。

しかし、昭和54年以降になると、オイルショック、200海里経済水域、輸出の不振、円高ドル安などによる経営困難のため遠洋竿釣の減船が行われ、竿釣漁獲量が減り始めます。それに代わって499トン型(カツオ漁船は500トン未満に規制されている。アメリカの巻網船は1,000~2,000トンで、魚群探索用にヘリコプターを搭載したものもある)主体の大中型巻網漁業が海外巻網として南方海域に進出しました。パプアニューギニア北部海域を主漁場とする海外巻網の総漁獲量は昭和58年以降30~40万トン台に達し、現在に至ります。

2. 竿釣(一本釣)漁業

※平成12年度現在の遠洋竿釣船...32隻

遠洋竿釣船「第8旭丸(499トン)」
鹿児島県枕崎市の旭漁業株式会社所有の遠洋竿釣船「第8旭丸(499トン)」です。

出船準備

燃料・ブライン凍結用塩化ナトリウム・食料・清水などを積み込みます(ブライン凍結については4.冷凍方法参照)。「仕込み」が終わった船は、漁場に向かう前に「餌場」(沿岸の巻網漁でカタクチイワシを獲って生簀で蓄養している地域)に立ち寄り、活餌の購入・積み込みを行います。餌場には餌買い人(多くは高齢で下船した元乗組員)が先行しており、活餌の良否などの情報を集めています。

航海

遠洋竿釣船の航海日数は50日前後で、その日程の約3分の1は漁場の往復に費やされます。近海竿釣船の航海日数は漁場が近い分短く、20日前後で入港→水揚げ→出港を行うピストン航海となります。

人員

昔は、200トン以上の竿釣船には60~70名ほどが乗り込んでいましたが、省力化が進み、現在の乗組員は30名程度となっています。

経費

燃料・食料・活餌・人件費などすべての経費を1日当りに換算すると約140万円になります。一度の航海が50日とすると合計7,000万円となり、これは水揚げ高の損益分岐点となります。

操業

漁場に到着すると日の出から日没まで魚群の探索を行います。もっとも発見しやすい魚群は鳥付で、鳥の飛び方で魚群の規模や実態をつかむことができます。魚群を発見するとフルスピードで近づいて群の手前でエンジンを停止し、船の「行き足」(スピード)を利用して群れを左舷側に見ながら先頭に回り込みます。

乗組員全員が釣台に上がって散水装置で海水のシャワーを注ぎ、イワシが暴れ狂っているように見せかけ、カツオを興奮させて左舷側に引き付けます。さらに長く滞留させるために老練な乗組員によって活餌(イワシ)が撒かれます。

興奮状態になったカツオは鳥の羽などで作られた擬餌(バケ)に次々と食いついてきます。釣針には「返し」がないので、魚と針の角度によって自然と外れます。釣り上げられたカツオはちょうど頭上で釣針から外れ、甲板上に落下します。入れ食い状態になるとこの状態が約30分間続きます。

操業が終了すると、釣り上げたカツオの洗浄とブライン液を満たした魚艙(魚を収納する場所)への投入を行います。一回の操業で10トン前後の漁獲があります。

3. 海外巻網漁業

※平成12年度現在の海外巻網船...35隻

第3常磐丸(349トン)
大倉漁業株式会社所有の「第3常磐丸(349トン)」です。

出船準備

竿釣船との大きな違いは、網で巻き獲る漁法なので活餌の積み込みがないことです。

航海

一回の操業で竿釣船より多くの魚を漁獲します。操業回数が少ないので航海日数も短く、30日前後です。

人員

竿釣船より少なく、16~18名で操業しています。

操業

竿釣船と同様に魚群の探索を行います。魚群を発見すると全速力で近づき、本船が投網に適した位置にくると「投網スタンバイ」の指令が出されます。

本船より甲板に収容してあるボートが降ろされ、魚群の追い込み作業に入ります。続いて船尾のスキフ(伝馬船〈本船と岸との間を往来して荷物または人を運ぶための小船〉)がスリップウェイ(船の後ろから甲板まで引き上げる通路)より降ろされます。網は深さ200m、長さは2kmと大きく、スキフはその一端を保持しています。

「投網レッツゴー」の指令で、本船とスキフが全速力で投縄を開始し、魚群を包囲します。本船とスキフが円周の一端で合流すると、スキフは網のワイヤーを本船に渡し、その両端を巻き締めながら漁獲します。1回の操業で30〜40トン、多いときは100トン程度漁獲します。

4. 冷凍方法

B1凍結(ブライン凍結1級品)

凍結方法

マイナス20℃前後のブライン溶液(濃い塩水=塩化ナトリウム溶液)に生きたままのカツオを入れて急速凍結します。投入されるカツオの体温でブライン溶液の温度が上がらないように、溶液を循環させておきます。

投入後、1分ほどでコチコチの状態になります。ヒレをぴんと立たせ、口を大きく開けたままの状態で凍結されるのは、生きているうちに凍結された証拠です。その後、8時間かけて体の芯までしっかり凍結させてから魚槽内のブライン溶液を抜き、超低温保冷庫でマイナス50℃の環境にして、釣ったときの鮮度を保ちます。生きたまま凍結させるのがポイントです。

用途

鮮度の良さは最高なので、刺身・たたきなど生食用になります。

ブライン凍結

凍結方法

一本釣や巻網で漁獲されたカツオを、ブライン溶液を入れた水槽の中に次々と投入していきます。B1凍結ほど温度管理が徹底していないため、大量に漁獲されるとカツオの体温でブライン溶液の温度が上がり、凍結時間にムラができる場合があります。そのため、B1凍結と比べると鮮度が低下したものが多くなります。ブライン凍結処理後は超低温保冷庫で保管します。

用途

巻網で漁獲したものですが鮮度がよいので、刺身・たたきなどの生食用になります。

PS凍結

凍結方法

巻網で漁獲されたカツオのうち、最初の方に獲った鮮度のよいものを速やかにブライン凍結処理します。その後、超低温保冷庫で保管します。PSは、P(purse seine=巾着網)S(special=特別な)の略で、巻網で漁獲して特別丁寧に取り扱ったものといえます。

用途

巻網で漁獲したものですが鮮度がよいので、刺身・たたきなどの生食用になります。

5. 漁質(近海竿釣 遠洋竿釣 遠洋巻網)

巻網は、竿釣と比べると一回の操業での漁獲量が多く効率がよい反面、魚質にバラつきが生まれやすい漁法です。 海水温度の高い南方の海では、網の中で大量のカツオが折り重なって熱がこもったり、カツオ同士がぶつかり合って身割れや内出血が生じます。また、一度で大量に揚がるため冷凍処理に時間がかかり、冷凍ムラが生じます。

鮮度の落ちた魚は塩分の浸透率が高くなり、塩水に漬けて凍らせるブライン凍結の場合はカツオが塩分を吸収してしまうこともあります。しかし、そういった問題点も冷凍技術の改良などにより年々改善されています。

  • 近海一本釣(水氷輸送)
    近海一本釣(水氷輸送)
  • 遠洋一本釣(B1凍結)
    遠洋一本釣(B1凍結)
  • 巻網(ブライン凍結)
    巻網(ブライン凍結)

魚質の種類

石ガツオ

肉質が石のように硬いので、「石ガツオ」や「ゴリガツオ」と呼ばれています。外観からはまったく判断がつかず、切ってみて初めてわかるのが通例です。 硬くなる原因として、肉中のコラーゲンの含有量が正常値(0.4~0.8%)より多い(0.5~2.6%)ことが判明しています。生臭さが非常に強いものもあり、一度食べた人は「硬く臭くて二度と食べたくない」と思うほどまずいものです。

餅ガツオ

石ガツオとはまったく対称的に肉質はしっとりとしていて、噛み応えも味もよいので「ぜひ、もう一度食べたい」と人気です。このような肉質になる仕組みは解明されていません。

オレンジミート

漁獲されたカツオの筋肉中のグリコーゲン(エネルギーの蓄積物質)は、細胞中の酵素により分解されます。グリコーゲンから乳酸まで順調に分解されていけばよいのですが、分解の途中で作用する多くの成分のうち、ATP(アデノシン三リン酸)や補酵素のNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が少ない場合、それ以上糖の分解が進まず、筋肉中にF6P(フラクトース―6―リン酸)やG6P(グルコース―6―リン酸)という糖類が蓄積してしまいます。

この糖類とカツオに多いアミノ酸(ヒスチジン)やクレアチンなどが、鰹節製造工程の煮熟や焙乾時の加熱により反応(メイラード反応)し、オレンジ色に着色した肉質となったものをオレンジミートといいます。これは、加熱処理される缶詰でも発生します。オレンジミートはその色調に加えて独特の焦げ臭といった特徴があります。

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