かつお節塾

カツオと鰹節

だしの話

日本料理に欠かせない「だし」は、世界の料理に欠かせないものでもあります。日本料理の要ともいえる「だし」 の歴史や種類と、中国料理や西洋料理で使われている、さまざまな「だし」についてご紹介します。

1. だしについて

 世界の料理には、旨味成分を含んだ素材を煮出して、その汁を賞味するものがあります。代表的なものは、日本料理の汁物・中華料理の湯<タン>・西洋料理のブイヨンやスープストックなどです。また、そのだし汁で他の素材を味付けし、旨味を付与することにより、複合的により美味しくする工夫がいろいろとなされてきました。
 鰹節のだしは、昆布と並んで日本料理の原点といえます。料理人の世界では、個々の店や料理人の秘伝の味として公にしてこなかった歴史もあり、京都・大阪の一流料亭では、鰹節は必ず店の主人が削るものとして、板前には削らせなかった時代もあったようです。
 煮干しは、鰹節だしの有用性が広く知られだした江戸中期前後に、高価な鰹節の代用品として使われるようになりました。ただし、鰹節や昆布と違い、だしを取る目的だけに作られたようです。

2. だしの歴史

(1) 鰹節だし

 鰹節については、江戸時代以来培われた食習慣の影響が現在まで受け継がれています。全国的な需要としては西高東低で、鰹節の産地である高知・鹿児島・静岡などの需要は当然大きいですが、江戸時代から食文化の発達した大津・岐阜・京都・名古屋なども古くから鰹節の需要が根付いています。中国地方は西日本に位置しながら、需要が少ない地域です。中国地方に需要が少ないのは、瀬戸内海は煮干、日本海側は北陸地方までアゴ(トビウオ)の産地であることが要因といえます。北陸地方も需要が少ないですが、これは北海道からの昆布ロードの陸揚げ地で昆布だし文化が発達しているのと、煮干し・アゴの需要が盛んな土地柄によります。
 沖縄が全国一の消費地なのは、江戸の初期から、外国船により長崎港・平戸港を出発して南方や中国(明・清)へ輸出される鰹節の中継港であったのと、薩摩藩が領内産鰹節の中国向け輸出基地としたことによります。これらの要因から、鰹節だしが沖縄の食文化に根付くことになりました。

(2) 煮干しだし

 煮干とは、小魚を煮て干したものをいいます。イワシをはじめ地域によってはアジ・サバなども用いられますが、一般に煮干というと「イワシの煮干」を指します。煮干しの発祥地は、黒潮に乗ってイワシが押し寄せる九州・四国の沿岸地方です。五島列島や紀伊水道が近世漁業の先進地となったのは、このイワシとそれを追いかけるクジラ・カツオなどの魚群が豊富だったからです。これらの地域では、無尽蔵に獲れるイワシの処分に困り、さまざまな利用法が考え出されました。その中で最大の産業に成功したのが干鰯<ホシカ>の製造です。江戸幕府成立以来、米作を基本とする重農政策が推進された結果、肥料価値の極めて高い干鰯が盛んに生産されました。干鰯造りには大型のイワシが適しますが、小型のイワシも大量に獲れ、効果的な利用方法が考えられました。

 江戸時代が進むにつれて、だしへの関心は高まっていきますが、鰹節や昆布は高級品で、一般の家庭では容易に入手できませんでした。江戸時代中期の享保年間以降になると、鰹節の代用品としてイリコが普及しはじめました。沿岸に殺到する子イワシを捕獲して造るイリコは量産され、価格も安いものでした。商機を見るに敏な大坂商人がこれを見逃すはずはなく、豊後水道・瀬戸内海沿岸の漁民に、イリコ製造の援助奨励を行い、これを集荷して西日本を中心に売りさばきました。

 明和年間(1764〜1771)には、大坂に「煎雑喉<イリザコ>」問屋仲間(組合)ができていた記録があります。大坂は鰹節・昆布のだしを使うため、近畿地方ではなく北陸・中国・四国・北九州に商圏を広げていきました。

(3) 昆布だし

 昆布が、蝦夷地(北海道)より北前船で日本海を通り、北陸の敦賀・小浜に陸揚げまたは陸路を経由し琵琶湖の水運を利用して京都へ運ばれたのは、江戸時代以前の室町時代からです。仏教信仰の歴史が最も古く、室町時代には精進料理が発達していた京都を中心とする近畿地方はもちろんのこと、北前船の寄港する日本海沿岸の港町に昆布の食習慣が根付きました。この昆布の運ばれた道を「こんぶロード」と呼びます。

 海上交通が盛んになった江戸時代には、北前船は山陰沖・関門海峡・瀬戸内海を経由して、直接商業の中心地である「天下の台所」大坂まで運ばれるようになりました(西回り航路)。その後、こんぶロードは江戸・九州・沖縄・中国(清)へと伸びていきました。沖縄は、鹿児島と中国との貿易の中継地として、重要な役割を果たしました。

 こんぶロードが伸び新しい土地に昆布がもたらされると、そこに「だし」としてだけでなく、独自の昆布食文化が生まれました。大阪ではしょうゆで煮て佃煮、沖縄ではブタや野菜と炒めたり、煮こんだりして食べられるようになりました。一方、関東地方は昆布ロードの到達が遅かったため、全国的に見ても昆布の消費量が少ない地域となっています。

3. だしの仲間たち

 日本で発達しただしは、前述の鰹節・煮干し・昆布以外に、マグロ・ソウダガツオ・サバ・ムロアジ・ウルメイワシなども節に加工されて、それぞれの地域で料理の用途に応じて使用されています(「鰹節の仲間参照」)。代表的なものは昆布・椎茸です。また、地域に根ざしたものでは、アゴ(トビウオ)・エビ・帆立貝・かんぴょうなどがあります。

(1) 昆布

a.種類:
 昆布は寒流系の水産植物(褐藻類)で、大部分が北半球に生息し、計26属が数えられています。日本の沿岸では14属45種が知られており、大部分が北海道・東北地方で、それより南ではワカメ・アラメ・カジメなどが見られます。北海道の太平洋の親潮(寒流)沿岸では、ナガコンブ・ミツイシコンブ(ヒダカコンブ)・オニコンブ(ラウスコンブ)などが見られ、対馬暖流が北上する日本海沿岸や、オホーツク海沿岸では、ホソメコンブ・リシリコンブ・チヂミコンブが、また暖流と寒流が交錯する噴火湾から津軽海峡沿岸には、マコンブが生育しています。

b.生態:
 昆布は外海に面した比較的波の荒い、水深5~7m付近に生育します。多くの種類は多年生で晩夏から初秋にかけて成長します。晩夏から冬にかけて放出される遊走子が、岩などに付着して発芽し、オスとメスの配偶体となります。その後、それぞれ精子と卵細胞になり、受精・分裂をくり返しやがて芽胞体となります。翌年の夏から秋にかけて成長しますが、これを水昆布と呼び、着生の状態で次年度の作況の目安とします。水昆布は夏から秋にかけて葉体の先端の古い部分が枯れ、根元だけが残ります。
 晩秋には残った根元の部分より再び成長が盛んになり、1年目のものに比べ大きく、厚みのある味の良い昆布になります。2年目の葉は翌年夏には成昆布として採取されます。1年目の水昆布が成長するのではなく、完全に生え変わったものが2年目の成昆布となるのが特徴です。

c.生産:
 産業上重要な種類は、マコンブ・リシリコンブ・オニコンブ(ラウスコンブ)・ホソメコンブ・ミツイシコンブ(ヒダカコンブ)などです。昆布の日本国内の生産量は、年間約3万トン前後ですが、青森・岩手・宮城で1,500トン(5%)の生産量で、残りは全て北海道で95%のシェアを占めます。

d.製品:
 昆布は採取される時期とその性状(性質や状態)・用途に従って、製品化(加工調整)され、それぞれ区分・名称がつけられます。

表.採取時期による区分
棹前(さおまえ) 5月1日から通常の採取時期(7月10日~20日頃)までに採取される2年生のもの。
夏採(走) 解禁日(普通7月10日~20日ごろ)から9月10日前後までに採取したもの。
秋採(後採り) 9月10日前後より終漁期までに採取したもの。
拾い 時化・その他のために漂着した昆布で成昆布のもの。
1年生(若生い)昆布のもの。
囲(ひね) 前年度に生産されたもの。
その他 干場を区分した砂付き・無砂・草干。天然・養殖(促成)などの分類。
表.加工調整(製品)による区分
元揃(もとぞろい)昆布 葉元を切りそろえて結束したもの。
長切(ながぎり)昆布 一定の長さに切りそろえて結束したもの。
折(おり)昆布 55cmの長さに折りこんだもの。この他にも棒昆布・雑昆布などがあり、それぞれ長さ・葉重量・葉 幅・結束などによって規格化され、等級が定められています。

e.性状と用途:

表.「マコンブ」
産地 函館~室蘭
特徴 上級品。
用途 高級だし昆布・塩昆布・オボロ・切り昆布。
表.「ミツイシコンブ」(日高昆布)
産地 広尾~日高~室蘭
特徴 煮上がりが早く、柔らかく味がよい。
用途 家庭用だし昆布。
表.「リシリコンブ」
産地 留萌~稚内~北見(利尻島・礼文島中心)
特徴 マコンブより硬いが、だし汁が透明で青草臭が弱く上品である。
用途 高級料理用。
表.「ナガコンブ」
産地 道東沿岸
特徴 長さが6~15mあり生産量が多い。「厚葉コンブ」はナガコンブの厚いもの。
用途 大衆的な加工原料として、佃煮・昆布巻き・おでん昆布・煮昆布。
表.「リシリ系エナガオニコンブ」(ラウスコンブ)
産地 羅臼・知床半島沿岸
特徴 葉が大きくて薄く褐色である。だし汁は濁るが風味に優れる。
用途 マコンブに対抗する高級品。
表.「ホソメコンブ」
産地 留萌~積丹~函館
特徴 細目の葉形で粘りが強い。
用途 トロロ昆布。

f.値決め:
 東北3県(青森・岩手・宮城)は、全て入札により価格が決められます。道内の主要銘柄のほとんどは、道漁連・生産者の代表と業界の代表(値決め委員)による値決め交渉で、価格が決められています。

(2) 椎茸

a.種類:
 椎茸は日本を代表するキノコで、年間で生椎茸が7~8万トン・干し椎茸が1万トンほど生産されています。干し椎茸には冬茹<ドンコ>・香信<コウシン>・香茹<コウコ>・大葉などの銘柄があり、これは生育する環境と収穫の時期によって決まります。

b.生産:
 樹齢15~25年のクヌギ・コナラなどの広葉樹を伐採し、1~2ヶ月放置して、枯らしたものを使用します。伐採は樹液の移動が停止する落葉前に行われます。
 まず、原木にドリルで穴をあけ、種駒(椎茸の菌を培養した木片)を打ち込みます。その後、原木を木漏れ日が適度に当る杉林・竹林に並べます。菌を植えてから2度目の夏の後に発生が始まります。原木が朽ちるまで、5~6年の間、毎年発生します。原木で栽培した椎茸は日持ちがしないので、採取直後に機械で乾燥します。熱風乾燥(40~55℃・15~20時間)させたものを、さらに遠赤外線乾燥機で内部温度を80℃ぐらいまで上げて仕上げます。60℃以上の高温で乾燥させると、椎茸の内部の分解酵素が活発になり、旨味成分であるグアニル酸が増えます。

 その後、天日干しを行います。天火に当てることにより、椎茸に含まれるエルゴステロールが、紫外線の作用によりビタミンD2に変化します。よく、椎茸は天日干しがよいといわれますが、採取直後から腐敗が進む椎茸を天日でゆっくり乾燥させると、刻々と品質が劣化してしまいます。最初は機械により短時間乾燥させ、その後、天日で干すのがベストです。

  収穫時期は、秋子(9~12月)・寒子(12~2月)・春子(2月~5月)・藤子(藤の花の季節/5~6月)となります。年間収穫量の3割が秋子、7割が春子です。

c.産地:
 栽培の始まりは、1600年代の九州豊後国(大分県)とも伊豆の天城ともいわれます。当時はクヌギの原木にナタ目を入れ、自然に胞子がつくのを待ちました。その後、改良が加えられ、昭和の時代になってシイタケ菌を純粋培養した種菌(種駒)が考案されて生産量が飛躍的に増大しました。生シイタケの主産地は、群馬・茨城・栃木で、干しシイタケの主産地は、大分・宮城・岩手・静岡です。近年は、中国産が大量に輸入されています。

d.種類と用途:

表.「冬茄」
収穫:時期 晩冬から初春の時期。
特徴 傘が開いてなく半球形。肉厚で歯ごたえがあるが、水戻しに時間がかかる。なかでも傘に白い亀裂が入り、肉厚で形の整ったものが天白冬茹。他に茶花冬茹など、細かくに分類される。
用途 煮物に最適。
表.「香信」
収穫:時期 春と秋の、温度も湿度も高い時期。
特徴 傘は開いていて、表面が滑らか。肉は薄い。
用途 幅広く使用できる。
表.「香茄」
収穫:時期 冬茹と香信の中間時期。
特徴 傘の開き具合と肉の厚さは、冬茹と香信の中間。
用途 冬茹・香信に準ずる。
表.「大葉」
収穫:時期 香信に準ずる。
特徴 香信の中でも、傘の直径が6cm以上あるもの。
用途 巻き寿司の材料として、関西で特に利用される。
(3) あご

 トビウオの地方名で、山陰・福岡・長崎で「あご」と呼びます。主として長崎県の生月島・平戸島および五島有川湾沿岸、また、壱岐・対馬でも生産されています。クセがなく上品な味わいで、生産量も少なく高価なものです。

「焼きあご」(丸焼き干し)
 原魚を開腹して、内臓だけを取り除いたものを焼いた後、天日または機械で乾燥して仕上げます。五島地区が主産地です。九州では、特に正月の雑煮のだしとして欠かせないものです。

「塩あご」(丸塩干し)
 塩漬けした後に乾燥して作ります。酒肴などの珍味として賞味されます。

4. 世界のだし一覧表

表.日本料理:だし
種類 旨味成分
昆布 潮煮(魚介類を材料とした塩味の汁物)や豆腐など、素材の風味を損ないたくないときに使用。 グルタミン酸
鰹節 日本料理に幅広く使用。 イノシン酸・グルタミン酸ペプチド
煮干し みそ汁・野菜の煮物など濃厚なだしに使用。 同上
さば節・宗田節 酸味や臭いが強く、そば屋のだしなどに使用。 同上
鶏ガラと昆布 中華・西洋料理に影響されて和風化した。 同上
精進だし 昆布・わかめ・干しシイタケ・かんぴょう・大豆などを水に浸けて取る。肉を禁じた精進料理のだしに使用。 かんぴょう(グルタミン酸)、干しシイタケ(グアニル酸・グルタミン酸)
表.西洋料理:スープストック・フォン
種類 旨味成分
鶏ガラの
スープストック
--- イノシン酸・グルタミン酸
白身魚の
スープストック
--- 同上
野菜の
スープストック
玉ねぎ・にんじん・セロリ・キャベツなど。 各グルタミン酸
シャンピニオンの
スープストック
--- グルタミン酸
フォン・ド・ボー 骨付き牛すね肉・仔牛の骨・香味野菜を炒めて煮出す。肉・骨・野菜の焦げ色と旨味が出てコクがある。 イノシン酸・グルタミン酸
表.中国料理:湯・タン
種類 旨味成分
鶏湯
<ジータン>
丸ごとの鶏にしょうがとねぎを加え、水から煮込む。 グルタミン酸・イノシン酸
肉湯
<ロウタン>
豚のモモ肉やロース肉を、しょうがやねぎとともに水から煮込む。 イノシン酸
排骨湯
<パイクウタン>
肉のついた豚のあばら骨を砕き、しょうがやねぎを加えて水から煮込む。濃厚な味でこってりした料理に使用。 イノシン酸
乾貝湯
<ガンベイタン>
干し貝柱を水につけてもどし、煮出した汁。濃厚な味。 グルタミン酸
乾鮑湯
<カンパオタン>
2日かがりで取る干しあわびのだし。2度目のゆで汁が上等。 グルタミン酸
蝦米湯
<シャーミィタン>
干しえびを熱湯に浸けてもどし、煮出した汁。 グルタミン酸
香茹湯
<シャンルゥタン>
干しシイタケをもどしてから、ねぎとしょうがを加えてとろ火で煮出しただし。 グアニル酸・グルタミン酸
搾菜湯
<ザーツァイタン>
ザーサイから取るだし。 グルタミン酸
蔬菜蔬菜湯
<シューツァイタン>
キャベツ・白菜・大根・にんじん・じゃがいも・玉ねぎのうち、2〜3種類を合わせて煮出す素湯(植物性の材料で取った湯)。 グルタミン酸
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